ご挨拶Greeting
COVID-19は、世界中の国々の政治や経済のみならず、人びとの社会観や自然観に根源的な動揺を与えました。人間社会の差別や経済状況に即して被害が甚大となる構造に加え、乱開発がもたらすウイルスと人間の頻繁な接触に警鐘が鳴らされています。
しかしながら、感染症による社会の大きな変化や、甚大な危機は、歴史的にはむしろ繰り返されてきたことであり、COVID-19であらわになった貧困、差別、自然破壊という諸問題も、新しいことではありません。むしろ、これまでの社会の根源的な問題がよりはっきりと人びとの目の前にさらされた、というべきでしょう。
ただ、人類がこれだけ先回りしてシミュレーションをして感染症対策に乗り出したのは歴史上初めてのことであり、計算と感染症の関係については更なる検討を深めていく必要がありますし、長期に及ぶ経済不況や世界各地で勃発する迫害や抵抗の中で、旧来の政治経済システムの問い直しが世界中で求められていることも確かです。
以上を踏まえた上で、私たちはこの危機の時代に、どんなヴィジョンを持ち得るのか、あるいは持ち得ないのか。幸いにも、感染症の歴史研究や、危機の時代を論じた思想は、膨大な蓄積があります。本プロジェクトでは、百年前のスペイン風邪の一次史料に加え、特に感染症の歴史の文献を今回並びに次回の危機の際利用しやすいように整理、蓄積すると同時に、パンデミックをめぐる歴史や理論をめぐって市民向けに「オンライン講演」を発信し続けることで、動揺する社会観や自然観の再構築にむけた骨太の人文学知を形成することを目的としています。
なお、本ホームページは、下記のそれぞれ独立した二つの研究チームによって共同で運営されています。
- 「パンデミックの歴史研究に基づいたポストパンデミックの社会・環境理論の構築」(日本学術振興会「課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業」代表:藤原辰史)
- 「ポスト・パンデミック世界の新しい社会・環境理論に向けて(京大人文研課題公募班 代表:香西豊子)